「勝者の混迷[上]」の続巻。
本巻では、共和政ローマを元老院体制に戻すために強権を発動したスッラと、最後までローマに挑んだポントス王ミトリダテスを倒した英雄ポンペイウスの栄光までが描かれる。
行き詰まりつつあったローマを再建するためにスッラがとった策は、かつて機能していた組織を旧に復することによりその栄光を取り戻そうというものであった。いわば、時代の流れに竿を差すというものだろう。そのためには彼は強大な権力を握り、反対派を苛烈なまでに叩きつぶす。しかし、スッラの築いた体制は、その死後簡単に崩壊する。それも股肱の臣であったポンペイウスによって。ポンペイウスは意識してスッラ体制を壊したわけではない。ローマの抱える問題を解決するためには、時代にそった政策が必要だったのである。
本巻で最も印象に残る人物は、実はスッラでもポンペイウスでもない。ミトリダテスである。ローマの下風に立つことを潔しとしなかった彼は、ローマの栄光の影に隠れた梟雄であったといえるだろう。著者にとってもこの人物は特筆すべき存在だったのだろう。その書簡をわざわざ全文掲載してさえいるのだ。
マリウス、スッラ、ポンペイウスとローマを外敵から防いだ英雄たちを描いているにもかかわらず、本書のタイトルは「勝者の混迷」である。彼らは確かに勝者であったが、その栄光をかちとりながらどこか報われない。それが行き詰まりを見せた共和政ローマそのものを象徴していたと著者は見ているのではないだろうか。
そして、本当の勝者がこのあとに現れる。本巻ではあくまで舞台の端でその他大勢としてしか出番の与えられていない、ユリウス・カエサルである。そういう意味では、ポンペイウスらはカエサルの露払いといった感じさえする。だからこそ、著者はその露払いに滅ぼされた抵抗者ミトリダテスに滅びゆく者への挽歌を捧げようとしたのではないかと、そんな気がするのである。
(2002年9月27日読了)