「一休闇物語」につづくシリーズ第3巻。
足利五代将軍義量の〈存在〉が消されかかっている。異国の悪鬼、〈悪巣〉が南朝再興と自らの天下を狙う伊勢の国司北畠満雅と手を組んだのだ。四代将軍義持の依頼で義量の護衛として若狭国小浜に向かうことになった一休。公儀目付人蜷川新右衛門と腕利きの武士たちに守られた義量を救えるのは小浜に滞在する高麗の高僧無虚玄道のみ。道中に突如現れ一休たちの味方をする若武者野浦伊亜丸と唐人座のシェたち。都では黒衣の宰相三宝院満済が真言立川流の秘法を使い一休の動静を探り、また管領畠山満家の心を操ろうとする。〈悪巣〉の幻術に一休は打ち勝つことができるのか。伊亜丸の真の目的とは。様々な窮地を脱しながら、ただひたすら小浜に向かう一行を待ち受ける罠とは……。
正邪善悪入り乱れ、物語は遥か天竺を越えペルシャにまでおよぶ。そのスケールの大きさはシリーズ随一である。〈存在〉というものに対するとらえ方一つとっても、本書のもつ奥行きの深さを感じさせる。この哲学的命題に対し、作者は伝奇小説ならではの回答を示しているのだ。さらに、古今東西の呪術に通じた作者ならではの舞台設定とピンチにつぐピンチというノンストップのストーリー展開が読者をぐいぐいと引っぱっていく。
懊悩しながらもひたすら無の境地を目指す一休のストイックさもまた大きな魅力である。いや、彼をとりまく多数の登場人物全てがなにかしら影をおびている。その影につけこむものこそが魔性の存在なのだ。
朝松時代伝奇の一つの到達点がここにある。この世界がさらに新たな地平を開いていくことを楽しみにしている。
(2002年10月1日読了)