読書感想文


陋巷に在り 11 顔の巻
酒見賢一著
新潮社
2000年9月30日第1刷
定価1500円

 「陋巷に在り 10 命の巻」の続刊。
 孔子の母、徴在が孔子を産むにいたったエピソードが太長老より語られ、彼女が尼山の神より課せられていた命が明らかになる。その顔儒の村に神に呼ばれるように侵入してきたのは悪女子蓉である。頑冥な長老たちは彼女の侵入を拒むが、腕利きの顔儒たちを倒しつつ、彼女は祠に到達する。一方、孔子の策によって城を取り囲まれてしまった成城では、悪悦が孔子の心を惑わせる秘策として、二千人の兵をもって尼丘山の顔儒の村を蹂躙するよう進言していた。顔儒の滅亡を予感する太長老は、若者を村より逃し、年老いた者たちの手で兵士を食い止めようとする。果たして悪悦の策謀は成功するのか。そして、祠の前で子蓉に求められるものはなんだったのか。
 物語は大きく動く。ここで明らかになるのは、古代中国における「天命」の重みである。老荘思想の「道」である。「天命」に耳を傾けることを忘れ、形だけの「礼」にしがみつこうとする顔儒の長老たちと、「天命」に対して心を開こうとする子蓉、「天命」にあくまで逆らおうとしながら実はその「天命」に導かれて動く悪悦といったそれぞれの違いが物語を大きく動かすのだ。本巻ではほとんど出番のなかった顔回や孔子がどのような形で「天命」に動かされていくのか。物語はいよいよ山場である。

(2002年10月2日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る