「双星記 5 歴史は宇宙で作られる」のサイド・ストーリーであり、続刊にもなっている。
幼くして両親を失った少女、ダイアナ・フーヴァーは、孤児院で育ったというハンディキャップをはねのけるためにエリート養成機関リゼッタ・アカデミーに入学し、トップクラスの成績をおさめる。その実力を認めたジェニファー・クローゼンヴァーグ大統領に抜擢され、宇宙軍の紅玉艦隊を率いる若き司令官となった。しかし、生き別れの弟はテロ組織に入り、大統領暗殺未遂事件を起こす。ダイアナは、自分を抜擢してくれた大統領のためにもと積極果敢にメッサージュ艦隊に戦いを挑むが、謎の司令官ラインバックの罠にかかり捕虜となってしまう。脱走しようとした彼女をつかまえたのは、司令官の連絡次官メリック・ラガであった。彼は、戦争の犠牲となった友人や妹の仇敵としてダイアナを憎んでいた。艦隊からの脱出に成功したダイアナだが、メリックの妨害にあい、敵地に不時着してしまう。憎みあう二人の男女と、途中で出会った戦災孤児クレスの一行は、戦火に焼けた町を旅する間に、互いに心を許しあうようになる。鍛え上げられたエリート戦士ダイアナが選びとった道とは……。
「双星記」の主人公ランディスヴァーゲンとダイアナの出会いは、全く同じセリフを反対側から描き出したものであったりするなど、「裏・双星記」という遊び心が楽しい。また、「双星記」では描き切れなかった戦争の別な側面にも光をあて、補完する役割も果たしている。本書により、「双星記」の世界に奥行きが増したということがいえるだろう。
自分の存在意義を確かめるためにあえて突っ張っている女性が、生死の極限で自分の本来の姿を見い出すという筋立てそのものは、特に新味はないけれど、一見平凡に見える物語に核心をついたものが秘められているということもいえるだろう。とはいえ、戦闘シーンの緻密さに比べて、ダイアナの心境の変化の描き方がいささか平板であるように思われる。対象読者を考えるとそうならざるをえないのかもしれないが、やはり物語の核心はダイアナの生き方なのだから、そこをみっちりと書き込んでほしかったところだ。
さて、「双星記」世界は今後どのような広がりを見せていくのだろう。それを期待させる一冊であることは間違いない。
(2002年10月17日読了)