「玄琴打鈴」の完結編となるシリーズ第7巻。
蒼姫という女性に命を救われた柳一葉は、高級官僚という身分も、家も名も捨てて、彼女とともに暮らす道を選んだ。愛する者と過ごす幸せを知った一葉であったが、そのささやかな幸せは無惨にも打ち砕かれる。何者かが蒼姫を殺害したのである。彼は蒼姫殺害の罪に問われる。蒼姫の死体が見つからなかったため、殺人罪こそ免れたものの、一葉は平壌から5年間の期限付きで追放されることになった。放浪の旅で彼は机上では知り得なかったものを学んでいく。旅先で母の危篤を知った彼は急ぎ平壌に戻るが、彼を待っていたものは弟の冷たい視線だった。一葉を死に至らしめたものとは。そして彼の遺骸を銀葉亭に持ちこんだ尼僧の正体は……。
誰かを愛するということの尊さと、一方的な愛の醜さ。本書で作者が描こうとしたのは、そんな愛の形なのだろう。また、自分に後ろ暗いところのない人間は、どのような生き方をしていても最後には他人から認められるという、いささか道徳めいた訓話でもある。
〈月の系譜〉や〈櫻の系譜〉では善悪を裏表から描いてみせた作者だが、このシリーズではあくまでも朝鮮にこだわっているため、儒教臭がつきまとうのは仕方のないことかもしれない。このシリーズはあくまでも作者流のおとぎ話なのだと考えるべきだろう。いわば作者の原点なのである。因果応報勧善懲悪の単純な図式がいささか物足りなくはあるのだが。
(2002年12月3日読了)