読書感想文


念力密室!
神麻嗣子の超能力事件簿
西澤保彦著
講談社ノベルス
1999年1月8日第1刷
定価840円

 「実況中死」に続くシリーズ第3巻。
 ミステリ作家保科匡緒と、〈チョーモンイン〉出張相談員見習いの神麻嗣子、そして美貌の警部能解匡緒が初めて出会うきっかけとなった密室殺人事件「念力密室」をはじめとして、保科が別れた妻と再会する「鍵の戻る道」など、全て念力によって作られた密室の謎を解く短編5編と、彼らの未来を暗示する短編「念力密室F」を収録した短編集。
 ここで扱われる事件は、どうやって密室を構成したか、ではない。そんなものは最初からわかっているのである。念力を使ったのだ。なぜ念力を使わなければならなかったのか、なぜ殺人が起こらなければならなかったのか。そこに重点がおかれているのである。
 だから、本書ではSF的な面白みはあまりない。それよりも保科を中心とした人間関係の変化を楽しむような作りになっている。シリーズならではの楽しみを味わうことができるのだ。そういう点では、最後におかれた「念力密室F」の意味深な描写はシリーズの今後の展開をより興味深くさせるものだといえるだろう。
 作者の人間観察眼の鋭さがそれを支えていることはいうまでもない。短編だと、それがより強く印象づけられるのである。

(2002年12月7日読了)


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