読書感想文


凶の戦士グラート2
青い触手の神
田中啓文著
集英社スーパーファンタジー文庫
1993年12月10日第1刷
定価456円

 「背徳のレクイエム」の続編。
 グラートの持つ剣には、目がついている。これは彼のかつての親友であった賞金稼ぎモーリーが、結婚詐欺師フィドルに妻を寝取られた上に命まで奪われたあと、グラートがその目を自分の剣に埋めこんだのだ。モーリーの目は今でも生きて剣にある。グラートは親友の仇であるフィドルを追ってヴィ・ドキア王国へ行く。この国はヴィザノフ十五世が善政をしいており、姫であるユーミはクラバス公爵との婚儀も決まり、幸せな雰囲気に包まれていた。ところが、ヴィ・ドキアの初代の国王にかけられた呪いがこの国を襲おうとしていた。魔神モーズの支配するヴィヘモス島から、国王の長女であるオーリ姫を生贄として差し出すよう要求がきたのである。ヴィザノフ十五世は即座に断わるが、ヴィヘモス島の神官ワギヨにオーリ姫を誘拐されてしまう。フィドルがヴィヘモス島にいるという情報をきいたグラートはジュラとともに島に渡るが……。
 絵に描いたように幸福な国がちょっとしたほころびから次々と不幸の渦に巻き込まれていく様は圧巻である。人間の欲望の醜さをみごとに描き切っている。ヤングアダルト小説らしく、少年剣士の淡い初恋みたいなものも盛りこまれているが、そんなものは清涼剤にすらならいほど、どろどろとした人間模様が展開されるのである。中高生向けの小説にここまでやっていいのかという気がするが、本当に面白い小説を書こうとしたら、うわべの快さなどはごまかしにしかならないだろう。本が好きな中高生はもちろん大人向けの小説だって読むわけであるし。
 それはともかく、本書も全編と同様どこかで復刊してほしいものだ。今なら喜んで読む読者はもっともっと多いと思うのだが。

(2003年1月4日読了)


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