「宮本武蔵 五」の続巻。
武蔵は下総の法典ヶ原で伊織という少年と出会う。父を病でなくした伊織を、武蔵は自分の弟子として育てることにする。法典ヶ原で武蔵は暴れ川の近くに耕地を開き、自然の力と戦うことにより修練を重ねていく。その姿に注目したのは細川家の家職、長岡佐渡であった。彼は武蔵を細川家に仕官させたいと考えるが、長岡が出向いた時には既にいずこかへと旅立ってしまった後であった。武蔵と伊織は江戸に出て、刀鍛冶の厨子野耕介と出会う。そこには宿敵佐々木小次郎の愛刀「物干竿」も預けられていた。江戸で親分と慕われる半瓦弥次兵衛のもとに身を寄せていたお杉は武蔵の居所を知ると小次郎とともに耕介の家に向かう。そこで小次郎を待ちかまえていたのは小幡勘兵衛の弟子、北条新蔵であった。小次郎に返り打ちにあった新蔵は、武蔵のお陰で一命をとりとめる。小次郎の腕を見込んだ細川家の家臣岩間角兵衛は小次郎を主君忠利に推薦し、その腕前を見せつけて士官に成功する。対する武蔵は甲州口で伊織とともに住まいし、伊織を鍛え上げようとしていた。
本巻では後に養子となる伊織との出会い、そして人を教えることによって自らが磨かれていく武蔵の姿が描かれる。自らの栄達のみを願う小次郎、その時々の状況に流されて生きていく又八との対比をより強く出している形である。私は、又八に強く共感する。何か大きなものになりたいが、その方法がわからず惑いながら流されていく又八こそ、人の自然な姿ではないだろうか。残念なのは、作者の筆致からは又八への愛情が感じられないことだ。作者が武蔵を賞揚すればするほど、その陰である又八に対する愛着がわいてくるのである。
(2003年1月18日読了)