「宮本武蔵 七」の続巻。完結編である。
堺の商人のもとに身を寄せていた伊織は、細川家の長岡佐渡と出会い、一足先に豊前へ。故郷に帰ったお通は自らの危険も顧みずお杉の命を救い、お杉は武蔵とお通への怨みを捨て去る。禅寺で修行していた又八は自分の産ませた子を連れた朱実と再会し、晴れて夫婦となる。城太郎と丹左は池田家に再び仕官した。そして細川家に仕官した小次郎は、主君の命を受けて武蔵と試合をすることが決まった。かくして豊前船島にて終生のライバル、武蔵と小次郎の決着がつけられる。
お杉の心変わりなど、不自然な点はある。大団円の下準備として、登場人物たちの身の振り方も全てつけられるのもかなりわざとらしい。しかし、巌流島の決闘のシーンは入魂の筆致である。終りよければ全てよしというのか、そこまでの引き延ばしなどなかったような読後感を与える。そこらあたりは流石といえる。
本書を「国民的文学」と称する文章をよく見るし、解説にもそのような表現がされている。しかし、私は本書は優れた大衆文芸であっても「国民的文学」というには奥行きがなさ過ぎるように思う。ここで感じられる楽しさは講談や芝居の楽しさである。類型的で勧善懲悪、主人公は数々の苦難を乗り越え、最後の決闘で勝利する。その時々を読者は手に汗を握りながら楽しむのである。トータルした時の完成度はそれほど高くはない。が、それでいいのだ。それこそが大衆文芸の王道なのだから。本書を人生の指針にしたりビジネスの心構えにしたりしてはいけない。そういう話ではないのだ。待ってました、日本一! と武蔵に声援をおくるように読む、そういう物語なのだから。
(2003年1月20日読了)