読書感想文


二人の武蔵 下
五味康祐著
文春文庫
2002年11月10日第1刷
定価590円

 「二人の武蔵 上」の続巻。
 柳生家から一族の娘寿々を江戸に送るよう命じられた岡本武蔵は、彼を愛するあまりにその後を追ってきた千殊、彼に惚れ込んで同道する夢想権之助とともに一路東へ。そこに加わったのは佐々木小次郎。この老人に対し、岡本武蔵は畏敬の念を抱く。柳生の江戸屋敷についた岡本武蔵は、平田武蔵と決闘することになる。柳生宗矩は韓人の江戸来訪に備え、平田武蔵、夢想権之助とその一派である皮袴組を一掃しようとしていたのだ。さらに、岡本武蔵が共倒れになる事にも期待をしてさえいた。皮袴組は解散、権之助は切腹。平田武蔵は奥州に残されていた権之助の一子、伊織を引き取り弟子とする。そして、細川家にかかえられた佐々木小次郎と武蔵の対決。小次郎の目前に現れたのはどちらの武蔵か……。
 剣豪小説の雄として知られる作者だけに、その剣法の描写はみごと。戦いに明け暮れる武者たちはその戦いの果てに何を残すのか。名を残すのみか。剣の道を極めようとする者は、女性を愛してはいけないのか。本書からは吉川英治の「宮本武蔵」に対するアンチテーゼが強く感じられる。作者の非凡なところは、本書を単なるアンチテーゼとしてだけではなく、オリジナリティのあるエンターテインメントとして書き上げた点にある。二人の武蔵が描く双曲線は、離れ、近づき、そして交わることがない。相容れない二つの要素をもった「宮本武蔵」という伝説を独自の手法で消化している。こちらの武蔵の方が理にかなっているような気にさせられるのが不思議である。

(2003年2月1日読了)


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