読書感想文


それからの武蔵 一 波浪篇
小山勝清著
集英社文庫
1980年10月25日第1刷
2002年10月13日第13刷
定価686円

 巌流島の戦い以降の宮本武蔵を描いた長編小説。
 佐々木小次郎の執事をしていた鴨甚内と小次郎の内縁の妻おりんは、武蔵を仇としてつけねらう。また、細川藩の小次郎門下であった若い武士たちも同様に武蔵に立ち向かう。しかし、武蔵の強さに心服した武士たちは、逆に武蔵の門下生となってしまう。甚内は槍の名手、高田又兵衛をけしかけて武蔵と戦わせようとするが、又兵衛もまた武蔵の強さに感じ入る始末。スペイン船とオランダ船の諍いを利用して、両者に武蔵を討たせようと画策する甚内であったが、スペイン人マデレス船長も武蔵の敵ではなかった。恋い慕ってくるお孝を、修業の途上にあるとして捨て去った武蔵の前に、武蔵の強さを自分の理想とする娘、お悠が現れる。彼女は長岡佐渡の姪と身分を偽っていたが、実は西軍についたために今では落魄している細川興秋の娘であった。諸国を隠密としてあるく座頭、森都など、武蔵をめぐり、新たな人間関係がうずまいていく。武蔵は二刀流を完成させようと、肥後の剣豪、丸目蔵人のもとを訪れるが……。
 タイトルにもあるように、吉川英治版「宮本武蔵」の続編を狙って書かれたものである。だから、本書にはお通は「お孝」という名で登場するし、武蔵や小次郎のイメージも吉川版「武蔵」のものと重なる。ただ、小次郎との決闘のあとは一度も試合をしなかったはずの武蔵は、本書では試合こそしないものの、彼を狙う者たちとかなり派手に立ち会ったりする。
 作者は児童文学畑の出身だそうで、たしかに、その文体は私が子どもの頃に読んだ子ども向けの読み物を思わせる。ストーリー展開も大衆文芸というよりは児童読み物という感じで、筋立ては派手だがあまり奥の深さを感じさせない。武蔵はこのあと求道者として独自の道を歩むことになるのだが、この調子でその深さが描き出せるのか、やや心配。大衆文芸の代表作である吉川英治版「宮本武蔵」の衣鉢をどこまで継ぐことができるのだろうか。

(2003年2月9日読了)


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