読書感想文


それからの武蔵 二 山雨篇
小山勝清著
集英社文庫
1980年10月25日第1刷
2002年10月13日第10刷
定価648円

 「それからの武蔵 一 波浪篇」の続巻。
 丸目蔵人から大地を耕す者の持つ力の大きさを教わった武蔵は、肥後の山中で若い女性を食らうという山賊、狒々丸を退治する。狒々丸の正体は、南方から連れてこられた大猿、その猿を表に立てて山賊を支配していたのは、古代のクマソの子孫を自称する男であった。大猿を退治し、真の狒々丸と戦った武蔵。そのころ公儀隠密にその素性を知られたお悠は、長岡佐渡の手配で尼寺で得度するよう迫られていた。いったんは尼僧となる決意をしたお悠であったが、武蔵のように自分の信じる道を進みたいと考えていた彼女は、武蔵に助けを求める。しかし、彼女を助けに来る武蔵を待ち伏せしていたのは鴨甚内たちであった。幻術を使う剣士、松山主水も加わった武蔵包囲網をくぐり抜け、お悠を助けようとする武蔵。その戦いの結末は……。
 本巻に至って、はやくも物語は吉川版「宮本武蔵」から一気に離れていく。熊本に伝わる武蔵の狒々退治伝説を取り入れたかと思うと、若きライバルとして登場した松山主水は面妖な幻術を使う。小次郎との決闘以降は、武蔵にはとりたててこれといったエピソードがない。そこで作者は思い切って兵法者との対決で己を磨く武蔵を描くのをやめ、強烈な個性の敵を配して物語を盛り上げようという方向に変えたかのようである。
 実は、それはかなり成功している。もう少し冗長さがなくなれば、講談的な読み物としてはなかなかのものになっていたに違いない。いかんせん、テンポが悪い。もっと畳み掛けるように展開を進めていってくれれば、と思う。それと、やはりどうしても武蔵を求道者としなければならないという足かせがあって、それが大胆な展開の邪魔になっているように思える。
 九州を脱出した武蔵とお悠の関係はいったいどうなるのか。物語はまだ始まったばかりである。

(2003年2月11日読了)


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