「それからの武蔵 二 山雨篇」の続巻。
武蔵とお悠が九州を脱出してから8年がたった。武蔵は江戸にいる。お悠は、武蔵へのねじれた愛情を持つおりんに短筒で打ち殺されて、若い命を散らし、そのおりんも、お悠を慕っていた松山主水に殺されていた。鴨甚内は山川蒼竜軒と名を変え、兵法学者となっていた。過去の恨みを水に流した蒼竜軒は、武蔵と和解する。細川忠利の推挙により、武蔵は将軍家光直属の兵法指南役に望まれる。江戸の町で浪人を集め差配する岩田富岳が登場、足利義昭の娘、由利姫を幕府との仲介役として、その力を誇っていた。松山主水も彼の庇護にある。彼は伊織の許嫁、お浪の父である黒田左膳を襲撃するが、武蔵によって妨害される。武蔵に対する恨みを抱いた富岳は、武蔵襲撃を計画する。その武蔵は、自ら将軍家への仕官を断わり、京へたとうとしていた。武蔵に心ひかれるものを感じる由利姫の動きは……。武蔵の行く手に立ちふさがる富岳の計画は成功するのか……。
前巻であれだけていねいにその救出劇を描いたお悠はあっさりと殺してしまう。第1巻から仇敵として徹底的に武蔵を狙ったおりんもまた同じ。それどころか、今後どのようにしつこく武蔵を狙うかと思われた甚内はなんと味方になってしまう。強敵と思われた富岳もさほどのものでなく……。いったいこの長編で作者が何をしたいのか見えなくなってしまった。前巻で吉川版「宮本武蔵」からかなり離れてしまったため、よけいな人物は退場させて物語の建て直しをはかったとしか見えない。数ある武蔵小説の読み比べをしてきて、なんというか、作家としての格の違いというものを見せつけられてしまっている。最も難しいのは、佐々木小次郎をしのぐ仇敵を創造できないところにあるのだろう。果たして松山主水がその任に耐え得るかどうか……。話はまだまだ続くのである。
(2003年2月13日読了)