「それからの武蔵 三 江戸篇」の続巻。
天草、島原のキリシタンたちが叛乱を起こそうとしていた。これに対し、領主松倉氏は苛烈な弾圧を加える。そのために孤児となったものを引き取り、「白百合館」と名づけた施設で養育する由利姫。宮本伊織は主君小笠原侯の命により、長崎を内偵する。一方、細川忠利から兵法指南役として仕官を許された松山主水は、由利姫の気をひくために島原に連れていかれた孤児を助けることにするが、その裏ではキリシタン浪人たちと取り引きをして攻城側の食料庫の場所を教えたり、攻城側が原城に侵入する手引きをしたりと、奸知にたけた行動を取る。武蔵の進言もあり、細川家人、寺尾新太郎は天草四郎の母親を捕縛し、その命を助けることを条件に、降伏を迫る。原城陥落後、由利姫は熊本で孤児を養育する。そこには細川家に仕える松山主水が待ち受けていた。小倉にとどまる武蔵は、その時病に倒れ……。
本巻の主役は由利姫である。彼女は女性が政治に参画できない分、ボランティア的な行動でそれに対抗する。こういった発想が、江戸時代にあったかどうかは別として、作者は由利姫を戦いに生きる武蔵と対角線上に置いてみせているといえるだろう。時代は大平の世に移りつつある。戦うことしか知らない者が無用になる時代がきた時に、必要とされるのは武蔵ではなく由利姫なのである。
本書が戦後すぐに書かれたというところから、作者が戦いに倦んだ人々の代弁者となっているということが察せられる。ここらあたりに吉川英治が「宮本武蔵」を執筆した戦前との温度差を感じざるを得ない。戦いのない世における武蔵の存在意義が次巻以降問われることになりそうである。
(2003年2月15日読了)