「佐々木小次郎 上」の続巻。
徳川方についた堺商人たちを一掃しようとする曽呂利伴内は、利休忌の茶会を利用して那智丸に会場の南宗寺を襲撃させる。事前に察知した東馬と小次郎は、那智丸の襲撃に立ちふさがり、商人たちの命を救う。堺をあとにした小次郎と島兵衛は、安芸で宮本武蔵という兵法者の戦いを見る。小次郎は、徹底した武蔵の戦いぶりに自分の目指すものとは別なものを見抜く。細川家に見い出され、小倉に道場を構えた小次郎は、まんの事を知って一度は別れた兎禰と再開し、夫婦として結ばれ、充実した日々を送っていた。しかし、そんな小次郎に対して宮本武蔵が挑戦状を叩き付けてくる。小次郎に迫る非情な運命……。船島に向かう小次郎の心境は……。
本書での小次郎は、政治的な動きに左右されながら、自分というものを確立していく若者である。幼子が母を求めるように女性を求めていたのが、ともに歩むパートナーを求めるようになる。そう、本書はまっとうな成長物語なのである。常識人として完成しつつあった小次郎を襲ったのは、武蔵である。戦うために生きている武蔵に、常識人の小次郎は敗れてしまう。不条理である。しかし、暴力というのはえてしてそういうものなのだ。これは、戦争という不条理に通じるものがあると、私には読めた。
物語の構成も運びも非常にうまく、本書が絶版になっているというのは実にもったいない。宮本武蔵ブームにのっかって復刊してほしいものである。
(2003年2月23日読了)