「秘伝・宮本武蔵 上」の続巻。
武蔵とおしの、そして申の3人を狙う柳生一派は、間違えて佐々木小次郎とその愛人である奈尾を襲撃する。連れ去られた奈尾を助けた武蔵たちは、真田一派のもとへ急ぐ。また、小次郎を奈尾と引き合わせるために接触したおしのは再び柳生の者に襲われる。おしのたちを救ったのは、幕府の中で反目しあう服部半蔵一派であった。半蔵一派は柳生追い落としのために真田一派とさえ手を組む。関東の旅で見聞したものを、明石の小笠原家のために活用しようとする武蔵であったが、城下町の設営をしている最中に柳生一派からの妨害が入り、幕府に逆らうことを危険とみなした藩主は武蔵の案を廃棄する。兵法で得たものを政治に生かしたいという武蔵の希望は断たれ、目標を見失った武蔵は、自分が希望もしていない小次郎との試合に臨まなければならなくなる。一方、真田一派は久能山から日光へ運ばれることになった徳川家康の遺体を奪い取ろうと画策、幕府と柳生一派の警護を突破しようとする。戦う意欲のなくなった武蔵は、そして真田一派の真の狙いは……。
下巻に入り、物語は伝奇色を強める。特に三者が入り乱れる謀略の戦いは、先の読めない展開が面白い。さらに、剣法の限界を悟り思い悩む武蔵という、他の「宮本武蔵小説」には見られない武蔵像に真実味がある。大凧や亀甲船などの小道具で「SF作家らしい奇想天外ぶり」と評されることもある作品だが、そのような目先の派手さにとらわれてはいけない。マクロな視点とミクロな視点を自在に使い分けて描き出される人間というものの愚かさ、哀しさ。その視点の使い分け方がSF的なのだ。
本書が絶版になって久しい。武蔵小説としては異色であるが、現代的な面白さという意味ではもっと読まれてよい作品だと思う。今回の武蔵ブームで復刊されなかったのが残念。
(2003年2月27日読了)