「素浪人宮本武蔵 一 白刃の篇」の続巻。
清洲の城下で池田輝政の差し向けた刺客を全て斬殺した平田弁之助は、江戸へ向かう。浜松で彼が出会ったのは「玉潰し」の異名をとる女、お仙である。彼女は旅芸人をしながら諸国の事情を見聞し、徳川家康に報告するという情報屋であり、強姦しようとした男性の睾丸を潰して自分の身を守る術を持っていた。お仙は、弁之助のことを気に入り、道中をともにする。途中でお仙と別れた弁之助は、輝政の追っ手から逃れるため、名を宮本武蔵政名と正式に名乗ることにする。原宿で賊に襲われた娘を助けるが、彼女は清洲城主福島正則の娘、香姫であった。香姫に気に入られた武蔵は、江戸屋敷まで彼女を送っていくが、その間に姫は武蔵に惚れ、自分の夫にしたいとさえ考えるようになる。しかし兄の福島刑部はもちろん許さず、武蔵は刑部の恨みもかってしまうことになる。江戸では伊勢屋という商家に世話になった武蔵は、伊勢屋の娘、お尚と情を通じる。伊勢屋の手引きで柳生又右衛門の道場に入ることを許されるが、柳生は武蔵とは立ち会わず、同じ兵法指南役の小野忠明を紹介される。忠明と立ち合い自分の未熟さを知った武蔵は、江戸を発つ。甲州街道で山賊から救ったのは甲府の金物商高田屋の女将、お佑であった。
とにかく、人を斬ることだけが本書の武蔵の全てなのである。女性を抱くのも、人を斬ったあとの興奮をしずめるためであり、女のために自ら進んで人を斬るようなことはしない。いわば、狂気の男であり、まさに鬼である。まだ二十歳にならない武蔵は、そうやって突っ走ることしか知らない。いずれどこかで転機を迎えることになるのだろうが、その転機をどのように描き出すのか。
それにしてもげっぷが出るほど人が斬られる。武蔵と出会う女はたいてい後家で、武蔵の若い性にみなのめりこむ。書下ろし文庫のはずなのだが、まるでスポーツ新聞の連載小説をまとめたもののような書き方である。読みやすいのだが、もう少しメリハリがついてないと、しまいには飽きてしまうのではないかと思う。
(2003年3月7日読了)