「素浪人宮本武蔵 三 修羅の篇」の続巻。
奥州で武者修業をするもう一人の武蔵が登場する。その名は竹村武蔵。彼は平田弁之助の武蔵とは違い、女色を断ち剣の奥義を極めようとしていた。津軽藩の指南役、朝比奈兵庫を倒した竹村武蔵は、出身地から姓をとり、宮本武蔵と名乗る。次の標的は京都の吉岡清十郎。染物屋として生きようとしていた清十郎と竹村武蔵は所司代の判定では引き分けに終わるが、実際は清十郎が紙一重の差で勝っていた。吉岡門人は竹村武蔵を不意打ちで殺し、山中に埋めてしまう。一方、弁之助の武蔵は、池田輝政の刺客を次々と倒しながら、京の豪商、浅田屋の妾、お吉と綾のそれぞれを抱く。賀茂の河原で彼に名を与えた宮本武蔵と再会、その剣の見事さに自分の未熟を知る。また、蓮台野で佐々木小次郎と出会う。そして竹村武蔵にかわって吉岡一門に挑戦、伝七郎を倒す。さらに又七郎を名目人に立てた吉岡一門と一乗寺下がり松で戦うのである。
本巻では、武蔵複数説をとり、3人めの武蔵を登場させる。ただ、作者は武蔵同士の対決は演出しない。それどころか、この武蔵はあっけなく吉岡門人に殺されてしまうのだ。どうもこの竹村武蔵は、吉川英治版の宮本武蔵によく似たキャラクターである。ということは、作者は吉川版武蔵に対して武芸者失格の烙印を押したということになるだろう。また、吉岡清十郎を気を扱う一種の超人として描き、武蔵もまた吉岡一門との戦いから、気というものに対する感覚を身につけるようになっていく。つまり、本巻はこれまでとは違い、節目となるできごとを多く取り入れた巻といえる。
さて、新しい境地に踏み込んだ武蔵を待ち受けるものは何か。興味深い展開になってきた。
(2003年3月10日読了)