読書感想文


素浪人宮本武蔵 六 餓虎の篇
峰隆一郎著
光文社時代小説文庫
1994年7月20日第1刷
2002年11月10日第5刷
定価514円

 「素浪人宮本武蔵 五 斬狼の篇」の続巻。
 鐘巻自斎の弟子、佐々木小次郎は師匠の小太刀の相手をしていくうちに長い刀を使うすべを覚える。木刀の打ち合いに飽き足らない小次郎は、浪人斬りをしながら真剣の腕を磨き、また料亭の女将、奈美によって女性にも目覚めていく。武蔵は松江で大工の棟梁の娘、お由を助け、しばらく逗留しながらお由を抱く。松江の領主堀尾吉晴の立ち合いのもとで、武蔵は大井織部という武芸者と試合をし、これを倒す。武蔵を気に入った吉晴から金子を拝領し、再び旅に出る。米子につき、野盗に犯されている温泉宿の女将、お咲を助けた武蔵は、その宿にそのまま逗留、お咲を抱く。次いで故郷に戻った武蔵は、彼に剣を教えた正蓮院に立ち寄る。そこで待っていたのは、彼の初めての女性、お佑だった。小次郎は金沢で深甚道場に行き他流試合を行い、門弟たちを負かす。武蔵は奈良に入り、槍の宝蔵院に行こうとするが、つてがない。山伏の幻術で淫乱になった母を救ってほしいと仏具屋の娘、お吟に依頼された武蔵は、山伏を斬り、自分の気合いでお吟の母の目を覚まさせる。お吟を抱いた武蔵は、仏具屋の紹介で宝蔵院を訪れた。年老いた胤瞬は、高弟の奥蔵院道栄に相手をさせるが、武蔵の敵ではもちろんない。14歳の跡取り、胤栄は武蔵の腕に憧れ、弟子入りを志願する。
 本巻で本格的に小次郎が登場する。しかし、小次郎が初めて人を斬った時の感情など、武蔵のそれとそっくり同じである。女遍歴を重ねるというシチュエーションもいっしょ。唯一違うのは仕官をしたがっているということだけである。いくらチャンバラシーンと濡れ場を売り物にした作品だとはいえ、せっかくの好敵手なのだから、もう少し明確な違いを出せなかったものか。
 さらに、前巻の後半で登場した弟子の十三郎は、本巻では突如消えてしまっている。どういった事情で武蔵と別れたか、くらいは書いてなければならないのではないか。そういった細やかな部分での書き込みの不足が目につくということは、長編小説ならではの大きな構成ができていないということではないだろうか。

(2003年3月13日読了)


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