「素浪人宮本武蔵 六 餓虎の篇」の続巻。
武蔵は柳生ノ庄を訪れ、柳生石舟斎と対面する。石舟斎は老齢で、既に戦う者の目の光を失っていた。かつて柳生を陥れた松田織部之助のもとを訪れた武蔵は、やはり老齢ながらなお戦う意志を失わない剣士の姿を見る。武蔵は奈良でノミの使い方を覚え、不動明王や愛染明王を彫る。これらは高い値で売れ、懐をうるおしてくれる。佐々木小次郎は越中の雪山で遭難し、助けてくれた娘、お福を抱く。山賊に襲われた西赤尾の村を救った小次郎は、飛騨高山へ。城主の金森長近や家老の井上丹後に気に入られた小次郎は、長近の前でその剣の業を見せる。奈良を出た武蔵は、池田輝政の差し向けた忍び、多羅尾一族と戦い、首領の十内の手首を落とす。多羅尾一族は武蔵を暗殺するのをあきらめ、武蔵に惚れ込んだくノ一の冴は、武蔵の旅に無理矢理同行する。武蔵は冴を抱くが、これがかれにとって初めての年下の女であった。宍戸梅軒の鎖鎌に挑戦した武蔵は、心理戦を行い焦らせた上でこれを下す。冴とともに清洲に入った武蔵は、ここでも浪人たちをぶったぎるが、その腕を見込んだ領主徳川義直が使者を立てて彼のもとを訪れる。大名に面会することを嫌った武蔵は、清洲を立ち去るのであった。
武蔵は本巻で冴という同行者を得る。くノ一で武蔵の片腕としても活躍できる冴の存在はなかなか面白い。このキャラクターを生かして新たなエピソードをふくらませることができそうだ。書下ろしで出し続けているこのシリーズは、登場人物がパターン化するきらいがありどうしてもストーリーにふくらみがもたせられないという弱点をもっているが、物語も終盤にさしかかって、そのあたりも解消されるかもしれない。
(2003年3月15日読了)