「素浪人宮本武蔵 七 龍祥の篇」の続巻。
武蔵は川越の大蓮寺に逗留、浪人に襲われていたところを救った阿矢を抱く。川に入り、水面に細波ひとつたてず斬る稽古をしていたら、それに感心したという武芸者中野一歩から親しげに声をかけられる。川越城の城番、沼田下総守は、城下に増えた浪人たちが不穏な動きをしていることを知る。武蔵の武芸の腕を見込んだ沼田は彼を浪人から城を守る要員として招くことにする。武蔵は軍師よろしく作戦をたてるが、この浪人を扇動する者は徳川家康その人であると喝破、味方の城を浪人に襲わせて豊臣方のせいにして大坂城を攻める口実を作ろうという意図を見抜く。川越城では夜伽の侍女、妙を抱く。大蓮寺を訪れた武芸者、夢想権之助と立ち合い彼を心服させた武蔵は、そろって川越城にはいる。近江屋の女将、お百を抱いた武蔵は、そこから城下町の情報を得る。また、中野一歩にただならぬ気迫を感じた武蔵は、一歩が浪人を操る一味の一人と見抜く。そして、いよいよ浪人たちが川越城を攻める日がやって来た。軍師武蔵の計略は成功するのか。
せっかく冴という魅力的な脇役を出しておきながら、この巻でははじめから彼女は登場しない。武蔵の口から、本人が伊賀に帰りたがったから帰したと語らせるだけで片付けている。小説というのはそういうものではないだろう、と思う。どんな端役にもドラマはあろう。ましてや重要な役割を果たした人物をこうも簡単に消してしまうという作者の手法には疑問を感じる。本巻での武蔵は軍師として活躍するが、これまでの人をただ斬るだけの武蔵に、軍師願望があるとはどこにも記されていなかっただけに、違和感を覚えた。ここでの軍師としての活躍が次巻につながるかというと、きっとそうではないのであろう。隔月書下ろし文庫という条件を考えても、やはり書きとばしているというイメージはぬぐえない。
(2003年3月16日読了)