読書感想文


素浪人宮本武蔵 九 牙狼の篇
峰隆一郎著
光文社時代小説文庫
1995年1月20日第1刷
2002年11月10日第4刷
定価514円

 「素浪人宮本武蔵 八 腥血の篇」の続巻。
 川越城の城番であった沼田下総守は江戸に戻され、武蔵もまた沼田の屋敷に逗留することとなった。ここでは沼田の妾、千代を抱く。新当流の梶原道場に行った武蔵は、他流試合で道場主の梶原新兵衛あと一歩で倒すところまで追い込む。新兵衛の娘、お葉の命乞いを受けたあと、武蔵はお葉を抱く。また、念流の柴山無心斎の道場では、無心斎は戦わずして武蔵の実力を認めた。武蔵はここでは無心斎の妻、お藤を抱く。黒田長政の江戸屋敷に招かれ、その腕前を披露した武蔵は、長政から召し抱えられたいといわれるが、穏便に断わる。そんな武蔵の前に現れたのは、4人目の宮本武蔵。武蔵義貞と名乗る相手に対して、弁之助武蔵は策を用いて追い払う。木造如雲斎の道場に他流試合にいった武芸者は生きては外に出られないという話を聞いた武蔵は、その秘密を探るために如雲斎の妻、お信を抱いてその秘密を探る。如雲斎の含み針を破った武蔵は、江戸を離れる。その道中で宮本武蔵義貞から決着をつけるよう求められた武蔵は、義貞の使う二刀流を打ち破る。旅の途中で知り合ったお福は、恋人を追って水戸へ行こうとしていたが、武蔵の剣の迫力に惚れて自ら体を開く。水戸から仙台へ行く途中で、武蔵は佐々木小次郎と出会う。ここでは戦うことはないが、お互いを強く意識する。仙台では世話になっている商家を乗っ取ろうとするやくざの親分をこらしめ、伊達政宗からも仕官を勧められる。ここではやくざの子分の情婦、お咲と、商家の娘でやくざの親分の情婦、登代と、政宗の側室、香を抱く。宍戸梅軒の弟、辻風黄平を倒した武蔵は、さらに旅を続ける。
 本巻では武蔵はもう一人の武蔵を倒す。二刀流を使う武蔵義貞である。ここまでの展開でも作者は武蔵を吉川版宮本武蔵を徹底的に否定する狂的な男として描いてきたが、武蔵義貞を倒すことにより、二刀流の武蔵をも否定したことになる。従来の武蔵像の破壊が目的であるという作者のあとがきからしても、本シリーズでの武蔵が二刀流の武蔵を倒すのは必然であった。そういう意味では、次巻に予定されている佐々木小次郎との決戦よりも、本巻の武蔵義貞との決闘の方が、このシリーズでは大きなものだったのかもしれない。
 それにしても、この武蔵はあまりにもとっかえひっかえ女性を抱き過ぎる。タイトルは「素浪人宮本武蔵」だが、「性豪宮本武蔵」というタイトルの方が似合っているように思う。

(2003年3月18日読了)


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