「宮本武蔵 二 地の巻」の続巻。
兵法者としての自信を失った武蔵は、かつて自分が手ほどきした者が悪事をはたらいているのを征伐しようとするが、その男杉江孫三郎は自刃してしまい、兵法者のけじめをつけられなかった自分にさらに恥じるところがあり、同行の僧、大淵の勧めで大坂城に死に場を求めることを決意する(「洞窟」)。途中、高野山に立ち寄った武蔵は、浅野氏の指令で大坂方の土豪の動きを制止しようとする伊賀忍者を倒す(「横笛」)。大坂城に入った武蔵は毛利勝永の足軽となるが、籠城戦のため死に場を得ることもできず、大砲の威力で停戦となったことに対し自分の非力を悟る(「大砲」)。大坂城を出た武蔵は、城の中で知己となった小山右近を頼るが、右近の家族は盗賊によって惨殺されており、仇は討ったものの乱心した右近をも斬らなければならなかった。右近の分も、と武蔵は再度大坂城に入ることを決意する(「再会」)。堺の町で兵法者を軽視する鉄砲商から無実の罪をなすりつけられた武蔵は、鉄砲に対する戦い方を会得する(「夕日」)。大坂夏の陣では毛利勝永の足軽となった武蔵だが、ここで初めて戦場の無情さを知る。また、戦場の豪傑三田村玄蕃から戦がなくなるこれからは兵法者の時代だと諭される(「死闘」)。出雲の国では兵法者を殺した犯人を喝破した武蔵だが(「証明」)、それは武蔵によく似た武芸者香川大六が武蔵のふりをしていたのであった。大六と旧知の武蔵は、それを知っても自分に迷惑がかかるものでないとわかっており、それを見逃している。武蔵は鏡を使用して人を斬る盗賊と戦うが、これは大坂城でともに戦った山代九郎太郎であった(「慚愧」)。武蔵に化けた香川大六はそろそろ武蔵のふりをすることをやめようとするが、武蔵を兄弟の仇と付け狙う伊賀忍者、花実によって武蔵として殺されてしまう(「落涙」)。
本書は、短編連作の形はとっているが、大河長編のような構成になっている。その分、物語に大きな流れができ、読みごたえがあるものになった。本巻での武蔵は、戦場という究極の生死を賭ける場に自らのみを置くことにより、兵法に対する見方を変化させる。このことにより、武蔵の剣に凄みが出てくる。しかし、彼をとりまく状況は、人間関係にからめとられ、生死を突き抜けた男であっても世俗にとらわれずに生きることはできないことを示す。このあたりのバランスの取り方がうまいし、物語の奥行きも出る。武蔵を仇と狙う忍者の登場、武蔵を名乗る男の出現など、脇役にも味のある人物が多く、その味を生かした物語を作っているところなど、ストーリーテラーの面目躍如であろう。
(2003年3月29日読了)