「宮本武蔵 三 水の巻」の続巻。
唐津で女性を連れた兵法者が立て続けに殺害される。これは、武蔵と花実を狙った伊賀者のしわざと看破した武蔵は、忍者の使う金縛りの術を破ってこれを倒す(「看破」)。上杉謙信、豊臣秀吉が所蔵したこともある幻の霊剣をめぐる騒動も、武蔵の剣に対する知識でかたがついた(「霊剣」)。武蔵を狙う刺客に対して、花実が雇ったのではないかと疑った武蔵は、その花実が傷つけられたことにより、花実もまた伊賀から追われた身であるということを思い知らされる(「疑心」)。太宰府の近くにある湯治場で花実の怪我を治させることにした武蔵に心安く話しかけてきた兵法者は、口から出任せを次々と語っていたが、その太刀筋から武蔵は正体を喝破する。死を賭してまで男が真実を守ろうとしたことに対し、武蔵は男の悲しさを感じる(「盗賊」)。湯治場を襲撃した伊賀者を倒して花実を守った武蔵は、とうとう彼女と結ばれる(「落花」)。東へ旅を続けた二人は江戸を経て東北に至る。仙台の伊達政宗は武蔵と柳生宗矩を戦わせようと策略をめぐらすが、武蔵はそれに乗らない(「街道」)。出羽の最上家親のお家騒動に巻き込まれた武蔵は、家親に諌言する兵法者を殺した犯人を家親の前でみごとに言い当てた(「評定」)。乳頭温泉で花実の古傷を完全に癒した武蔵だが、湯治場に逗留した代金の持ち合わせがなく、鬼面をつけた盗賊を退治する(「鬼面」)。癇の強い大名、南部利直は、自分に平伏しない武蔵に対して怒り、なんとかして武蔵をやりこめ倒してしまおうと画策するが、武蔵はそれに屈せず実力を見せつける(「無刀」)。甲府に入った武蔵は、榊原家の家来の8歳の息子小四郎が剣の腕がたつのをいいことに乱暴をはたらくから懲らしめてほしいと依頼を受ける。しかし、武蔵の実力を見せつけられてもひるまない小四郎。花実が小四郎を懲らしめるためにとった秘策とは(「悪童」)。
度重なる苦難を乗り切った武蔵の心に大きな変化がおとずれる。花実への愛情、みだりに人を斬らない分別など、人間的な成長を遂げていく。こういった変化を捕らえられるのも大河長編の利点だろう。そして、読者は武蔵の成熟の過程などを楽しめるのである。
(2003年4月2日読了)