読書感想文


吹け、南の風 2 星海の襲撃者
秋山完著
朝日ソノラマ文庫
2002年4月30日第1刷
定価457円

 「吹け、南の風 I」の続巻。
 連邦の艦隊はトランクィル廃帝政体の海賊船「フリーゲンデ」をとらえてトランクィル攻撃のきっかけをつかもうと、罠を仕掛ける。囮として航行させる独立商船「ゼンダ」号を「フリーゲンデ」に襲撃させ、「ゼンダ」号が「フリーゲンデ」を足留めしている間に攻撃しようというのだ。そんなことも知らぬ「フリーゲンデ」はまんまと罠にひっかかり「ゼンダ」号を襲う。「ゼンダ」号に逆にとらえられてしまった「フリーゲンデ」は、海賊とトランクィルの関係を知られないために自爆するしかない。ところが、健忘症の艦長コムカタは、何を思ったか独りで「ゼンダ」号に乗りこもうとする。彼の記憶の奥底に隠された「ゼンダ」号との関係とは……。
 いよいよ物語が動き出す。ここでのキーパースンは「フリーゲンデ」の艦長コムカタと「ゼンダ」号の船長ティダである。また、トランクィルがなぜ独立勢力として連邦と敵対することになったかという背景もここで明らかになる。トランクィルが一部特権階級のエゴで作られたクローン人間、しかも豚の遺伝子を持っているがために永らく人間とは認められていなかった存在であったというあたりの設定が秀逸。
 もっとも、1冊の分量が少ないのと、人間関係の把握にかなりページを割いているために、物語は動き始めてはいるが一気に進まないのがもどかしくはある。また、SF小説や特撮番組などをもじったくすぐりも面白くはあるのだが、作者と同世代にはわかっても、若い読者にはついていかれないところもありそうだ。もちろん、隠し味としての遊びにそんなクレームをつける必要はないのだが……。
 次巻は完結編。ここまでじっくりと書きこんできた背景を生かして一気に物語が進むことを楽しみにしたい。

(2003年5月11日読了)


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