読書感想文


吹け、南の風 3 開戦への序曲
秋山完著
朝日ソノラマ文庫
2003年4月30日第1刷
定価800円

 「吹け、南の風 2」の続巻。完結篇である。
 「連邦」大統領第三息女、14歳のジルーネが仕掛けた罠により、「フリーゲンデ」号と「ゼンタ」号は「連邦」の司令官ロストウ少佐の手で攻撃されようとしていた。「フリーゲンデ」号の艦長コムカタと「ゼンタ」号の船長ティダは再会し、太陽光がなくとも光合成のできる植物ヴィシュニアと、それに寄生する微細な生物の力で、過去を共有し心を通わせる。「フリーゲンデ」のクルーは「ゼンタ」号に忍びこみ、「フリーゲンデ」と「ゼンタ」号を切り離させようとする。ロストウ少佐の容赦ない攻撃が始まり、「フリーゲンデ」と「ゼンタ」はともに破壊されようとしていたが、そこでコムカタがとっさにとった行動とは……。ジルーネの計画は成功し、「連邦」とトランクィルとの間に戦線が開かれるのか……。宇宙の運命を変える事件の意外な顛末は……。
 作者がここで描き出すのは、痛みを知らぬ者ほど人の痛みに鈍感であること、痛みを知る者こそが繊細でまた平和を望むということである。完結篇は予想以上の長さになったが、作者にここまで書きこませたものは、9・11テロとそれ以降の国際情勢の展開であろう。単純で無邪気な為政者が、非道な殺戮を実行させる。それに対する怒りが本書に反映しているよう思われる。美しく無垢な悪魔、若くして人生の辛酸をなめ尽くした汚れた天使。2人の少女を対置することにより、作者はその主題をより強く読者に指し示すのだ。
 戦略や戦術に盛り込まれたアイデア、また、人の記憶をも波動に変えて提示する微生物などの小道具が、物語をより魅力的に進めているのはいうまでもない。作者の作り出す壮大な宇宙史の、これは一部に過ぎない。しかし、その一部でしかなくとも、人は笑い、泣き、怒り、そして生きる。その生の営みこそ、作者の描きたかったものなのだろう。私には、そう感じられるのである。

(2003年5月16日読了)


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