「北野勇作どうぶつ図鑑 その1 かめ」に続く短編選集。
「新しいキカイ」では工場に導入された新しい機械の先のイソギンチャクみたいなヘルメットに頭をつっこんだら、今までどおりの仕事をする夢をみて、その夢をみている間に新しい機械が新しい仕事をしてくれる。そのうち、ゆめの中の工場でまた新しい機械のヘルメットに頭をつっこまされ、さらにそこでみた夢の中でも新しい機械が導入され……という具合に夢の中で同じことが次々と繰り返されていく。現実から自分の仕事そのものが失われていく喪失感みたいなものが描かれていて、何かぞっとするものを感じさせる。
「トンボの眼鏡」は書下ろし。オートメーションの機械が誤動作する事件が多発し、特殊な眼鏡をかけると、それが普通では見えないトンボの仕業であることが判明する。そのトンボを捕まえる仕事をしている男のこっけいで悲しい奮戦を描く。自分のまわりに目に見えない何かがいるという不安感と、それに対してさしたる抵抗もできない無力感。現状を受け入れるしかできない主人公に、閉息した現代のカリカチュアライズされた姿を見る。
「西瓜の国の戦争」は、宇宙生命体から情報を得ているとされるライバル会社に勝つために、西瓜の形をした生物を体に寄生させて対抗する会社員たちの話。抵抗しながらも結局は西瓜生命体に自分の意志を預けることを選ぶ主人公の心理の奥にある深い絶望感が胸にしみいる。
3篇とも、会社で単調な仕事をしている人物たちがその仕事の無意味さに気がつきながら、それでもその無意味さに飲み込まれていく様子が描かれる。組織の中で働くということが、作者にはかなり苦痛だったのだろうか。本書だけではなく、単調な仕事に埋没していく人間を、作者はよく描く。登場人物は、埋没することを受け入れるという筋立てが多いが、作者はそれを決して肯定的に描いているわけではないだろう。淡々とした筆致の向こうに透けて見えるのは、そのような状況に対する拒否ではないかと思うのである。
(2003年5月17日読了)