「呪禁官」に続くシリーズ第2弾。
養成学校を卒業して呪禁官の研修に入ったギアは、捜査の途中で教官であった龍頭麗香の危機を助けられず、見殺しにしてしまう。正式に呪禁官となってからも、彼の頭にはその罪悪感がこびりついている。しかし、龍頭はその意識を美しい少女の姿をした人形に移しかえられて復活、再びギアと組むことになる。呪的災害が頻発する中で、それが霊的発電の建設地の周囲に起こっていることがわかったため、ギアは霊的発電所に注目する。サイコムウと名乗る術者が犯行声明を出す一方で、それに対して科学の力で対抗する科学戦隊ボーアマンが現れ、呪術対科学の戦いが世間の耳目を集める。その戦いの図式は、まだ科学に力があった時代に人気のあったテレビ番組そのままであった。サイコムウ、ボーアマン、そして呪禁官が霊的発電所で繰り広げる戦いの結末は。蘇った不死者の力を防ぐことができるのか。ギア、龍頭、さらには養成学校時代の友人たちが再び集結する……。
前作は魔法対科学の図式がはっきりとしていたわけだが、本書では、霊力の戦いが全面に押し出されており、科学を信奉する者たちはお飾り程度のものに過ぎない。では、本書の見どころはどこにあるのかというと、新人の呪禁官が大事件に遭遇することにより、自立していく姿、これがテーマとなっている。
もちろん作者のことだから、一筋縄ではいかない。蛋白分子一つ一つに呪文を書き込んだ分子サイズの〈ナノ呪符〉や、霊力を利用した発電の仕組みなどのアイデアも秀逸である。なによりも科学教団の教祖、宇城宙太郎や、養成学校卒業後に呪禁官にならなかった友人たちのもつ屈折の描き方が、物語に奥行きを与えている。卒業後初めて集結した同窓生たちのそれぞれの心理など、作者ならではリアリティが感じられる。
新書ノベルスの「伝奇バイオレンス」にありがちな御都合主義はここでは排除されている。その分カタルシスは少ないかもしれない。しかし、「伝奇バイオレンス」の意匠を借りて、ビルドゥングス・ロマンを展開していくという作者の試みはみごとに成功しているといえるだろう。
(2003年6月1日読了)