読書感想文


龍の黙示録
唯一の神の御名
篠田真由美著
祥伝社ノンノベル
2003年5月20日第1刷
定価876円

 「東日流妖異変」に続くシリーズ第3弾。
 主人である神の子、イエスを失った龍緋比古は、アダムの最初の妻と名乗るリリトという謎の女の言葉を受け、ローマ皇帝ティベリウスの命を狙う。老いたティベリウスを目のあたりにした彼は……。100年後、皇帝ハドリアヌスの前に現れた彼は、その高貴な心にうたれて「聖なる血」を与えようと申し出る。それに対するハドリアヌスの返事は……。時代も土地も変わって倭の斑鳩宮で厩戸皇子と出会った彼は、その面影に自分の主人、イエスと同じものを見る。朝廷を我がものにしようと謀る蘇我馬子は、拝火教の司祭と手を組み、悪神アンラ・マンユを現世に呼び出そうとしていた。瀕死の状態にある厩戸皇子の体を求める悪神と対峙した彼は……。
 2000年の時を生きる龍の過去を描いた中編2本を中心にした外伝的な1冊。永久に生きる宿命にある彼は、何を目的として存在し続けるのか。迫りくる孤独にどのように耐えていくのか。その一端がここで描かれる。龍の体に流れるイエスの血を取ろうとするリリトの誘惑とそれに対する葛藤を描いた「終わりな夜に生まれつくとも」もいいが、ゾロアスター教日本伝来の可能性を、上宮家と蘇我氏の対立という史実にうまくからめながら描く「唯一の神の御名」が特に面白い。伝奇小説の基本的な条件である史実と虚構のからみ具合が、いいバランスでブレンドされているからだ。しかも、その虚構の部分が後世に語り伝えられなかった理由にも説得力をもたせている。
 現代を舞台にした正伝もいいが、歴史的な舞台を使った外伝に、私はより強い魅力を感じた。あとがきで予告しているように、今後も続けていってほしい。

(2003年6月11日読了)


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