読書感想文


北野勇作どうぶつ図鑑 その5 ざりがに
北野勇作著
ハヤカワ文庫JA
2003年6月15日第1刷
定価420円

 「北野勇作どうぶつ図鑑 その4 ねこ」に続く短編選集。
 会社の危険な同僚から逃げる男のたどりついた場所は……(「押し入れのヒト」)。お盆になって帰ってきた老人を海まで送っていった若者が見たものは……(「ヒトデナシの海」)。河原で拾ってきたペットを育てる僕だが……(「ペットを飼うヒト」)。短編3本と連作ショートショート「生き物カレンダー」最終4話を収録。
 ヒトのように見えてもヒトデナシだったりする。ならば、ヒトって何だろう。ヒトがヒトであるための条件ってあるのだろうか。本書に登場する「ヒト」たちの姿は、読み手にそんなことを考えさせてくれる。現実の世界の存在の危うさを描き続ける作者だが、そのテーマが「ヒト」に向けられた時、「ヒト」はその存在理由を問われることになるのだ。だからといって、作者はカタストロフを赤裸々に描いたりはしない。日常の営みがけっして劇的なものばかりではないのと同様に。
 なんとも切ない気持ちにさせてくれる1冊である。

(2003年6月17日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る