読書感想文


北野勇作どうぶつ図鑑 その6 いもり
北野勇作著
ハヤカワ文庫JA
2003年6月15日第1刷
定価420円

 「北野勇作どうぶつ図鑑 その5 ざりがに」に続く短編選集。選集も本書で完結である。
 「曖昧な旅」は、どこかよくわからない場所を旅する人物を描いた12の点景。行ってしまったら帰れない旅もあり、どこにも行けずに立ち往生する旅もあり。独特の浮遊感がどの景色にもただよっている。「イモリの歯車」も旅をする男の話。イモリを助けたために死んだ妻そっくりに姿を変えられたイモリの妻が3日間だけの約束でやってくる。イモリの妻を返したくなくなった男は、逃亡の旅に出るが、イモリも執念深く追ってくる。だからといって緊迫感あふれるサスペンスにはならない。逃げているのに、呑気。不思議な旅である。書下ろし短編の「カメリ、ハワイ旅行を当てる」ではカメリが福引きでハワイ旅行を当てて「夢のハワイ」に行くのである。でもそのハワイは初代通天閣のルナパークのハワイだったりするのかもしれない。なにしろ「夢のハワイ」なのだから。
 そうだな、浮遊感。これに尽きる。それ以上に、僕にはいう言葉もないかもしれない。どこかにありそうでどこにもない場所。知っているようで知らない場所。北野勇作の旅は、借り物の異世界には連れていかない。どこか奇妙にずれた「異」なる世界である。
 こういう作品のことを「詩」というのではないか。なんとなくそんな気がする。

(2003年6月19日読了)


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