読書感想文


UMAハンター馬子 闇に光る目
田中啓文著
学研ウルフ・ノベルス
2003年7月17日第1刷
定価850円

 「UMAハンター馬子1 湖の秘密」に続くシリーズ第2巻。版型を変えての刊行である。
 おんびき祭文という伝統芸能の伝承者、蘇我家馬子とその弟子イルカが辺鄙な場所にわざわざ公演に行き、そこで未確認生物(UMA)の正体を伝奇的な知識とはったりと駄洒落で解明していく。今回は広島県比婆山にヒバゴンを求めるが、そこで出会った雑誌記者とともに飛騨へ「ヒダゴン」を探しにいって河童の謎に迫っていく「恐怖の超猿人」、海岸に流れてくる正体不明の生物グロブスターと恵比須伝説を結び付ける「水中からの挑戦」、奈良に登場した吸血生物チュパカブラと馬子が対決する「闇に光る目」の3編を収録。
 緊張と緩和、は故二代目桂枝雀の「笑い」に関する理論である。強い緊張のあとにくる緩和が笑いを呼ぶのだ。本書はまさしくそれを実践したものである。伝説や演芸に関する深い造詣を駆使し、しっかりとした伝奇小説の骨格を備えた設定と展開に、デフォルメされたキャラクター、息をもつがせぬ謎解きの末にすとんと落ちるサゲ、このバランスがとれているからよいのである。
 というわけで、あいもかわりませぬ脱力感でございます。ただし、本シリーズの場合、その先に大きな謎が待ち受けているようなので、実はものすごく壮大な本格伝奇ロマンとして完結する可能性もある。そこらあたりの期待感が他の田中脱力小説とは若干違うのではある。果たして時口と伝奇、どちらを優先させるのか。期待せずにはいられないではないか。

(2003年7月6日読了)


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