読書感想文


一休破軍行
朝松健著
光文社カッパ・ノベルス
2003年7月25日第1刷
定価1300円

 「一休虚月行」につづくシリーズ第4巻。
 一休が旅先で陰陽師鴨文明と式神ソーケイ坊から助けた少年、虚丸は、南朝再興をもくろむ北畠満雅に次期天皇である彦仁王の魂を抜き取った後の「器」とされようとしていた。大古の神を奉じる伊勢裡宮の血族、異連斎庭の秘法により彦仁王の魂は虚丸の体内に入ってしまう。この魂を抜き出すのは異連斎庭のみ。一方、三宝院満斎は彦仁王の魂を取り戻させようと一休に伊勢に行くように命じる。女忍者の篝は、一休と虚丸を守れという命を受け、同道する。さらに、鴨文明とソーケイ坊の二人組も一休らとともに伊勢に向かう。行く先々で、伊勢裡宮の血族である加古四郎が妖術を使って民衆を操り、大々的な一揆を引き起こして都にせまりつつあった。大古の神は復活するのか。満雅の野望は実現するのか。そして、彦仁王の魂は虚丸の体からもとの体に戻ることができるのか。六代将軍義教も加わり、陰謀は二重三重にからまっていく。
 自らの存在を守るために多くの命を犠牲にしていく行為に対し、一休の怒りは本巻でも炸裂する。人々の苦しみを目のあたりにする次期天皇の心境の変化が描写されているのも興味深い。前巻で登場した権勢欲の塊のような人物たちが新たな動きを見せ、それが新しい登場人物である加古四郎たちの思惑とからんでいくあたりは、実に読みごたえがある。本巻に登場する鴨文明とソーケイ坊のコンビは、独特のユーモアをかもし出しているのだが、彼らもまた物語のカギを握る人物になっていく。多数登場する人物の関係が、ひとつの大きな流れに向かっていくという、物語の王道を本書は歩んでいる。
 一休と加古四郎との派手なアクションシーンもいいのだが、それよりは物語の底流に流れている作者の正義感を生かすための仕掛けである。この仕掛けの迫力があるからこそ、作者の正義感が説教臭くならないで描き出されるのだ。今後のシリーズでも活躍しそうな人物も顔を見せ、シリーズはいよいよ佳境である。

(2003年7月24日読了)


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