「マルドゥック・スクランブル The First
Compression−圧縮」に続く第2巻。
バロットがウフコックの力を濫用したため、ウフコックは傷つく。彼が開発された「楽園」でその治療を行うことになり、バロットも身の安全を保つために「楽園」へ。彼女はそこで動物や人間を改造して命を長らえさせたりするシステムに触れる。バロットを狙って侵入したボイルドも結局彼女に手を出すことはできない。バロットとウフコック、そしてドクター・イースターはシェルが経営するカジノにおもむく。失われた彼の記憶はカジノの最奥部にある高額のチップに隠されていることがわかったからだ。バロットは、ウフコックと組んで持てる力をどんどんと発揮し、いくつかのギャンブルで勝ち、資金を集めていく。シェルの罪状を立証させる証拠となる「記憶」を手に入れるために……。
「楽園」と「カジノ」の対比が面白い。「楽園」の人を生かすシステムの中で、短い命で終るはずだったものが「生きる」という意味を味わいながら暮らしている。カジノでは、人々は刹那的な楽しみだけのために大金を賭ける。そこに加えて人を殺すことでしか自分の存在意義を保つことのできないボイルドという人物がその対比をより明確、かつ奥深いものにしていく。
本書の読みどころはやはりカジノでのバロットの戦いだろう。血を流さないかわりに、知的な興奮を与える戦い。ギャンブルに臨む人間心理ももちろん描写されているが、それ以上にギャンブルの持つ確率の面白さを強調した展開になっているのだ。私はそれほどたくさんギャンブル小説を読んできているわけではないが、例えば阿佐田哲也や新橋遊吉などの世相やアウトローの生き方を強調したものとは全く違うギャンブルの面白さをここでは示してくれている。この部分だけでも読む価値はあるのではないだろうか。
自分が「なぜ」いるのか。その存在の意味を少しずつ発見していく少女。ビルドゥングス・ロマンとしての側面も持ちつつ、人は何のために戦うのかというテーマにも挑む。それがどっちつかずにならずに進んでいく。はたしてこの戦いはどのような決着がつくのか。最終巻となる次巻が楽しみである。
(2003年7月31日読了)