読書感想文


マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust−排気
冲方丁著
ハヤカワ文庫JA
2003年7月31日第1刷
定価720円

 「マルドゥック・スクランブル The Second Combustion−燃焼」に続く第3巻。
 バロットは、ブラックジャックのゲームでディーラーのマーロウをたたきつぶすが、カジノ側は最強のディーラー、アシュレイを繰り出してくる。息詰まる戦いの中でバロットは自分自身を見失いそうになるが、よき対決相手でもあったアシュレイの望むように自分自身の感覚を最大限に使い、この戦いを制する。これによってチップに隠されていたシェルの記憶を全て入手したウフコックたちは、そこに残されていたシェルの過去と、彼が殺してきた少女たちに共通する体験を発見した。シェルを見放すことにしたオクトーバー家は、ボイルドと契約してシェルとバロットを抹殺することにする。法廷で勝利するためにも、バロットはシェルを守らなければならない。最強の敵、ボイルドとの最後の戦いか始まる。
 作者があとがきで告白しているが、バロットとアシュレイのブラックジャック勝負を書いている途中にあまりの緊張感に嘔吐してしまったという。さもありなん、である。この緊迫感はそうは書けない。というか、そこまでしてものを書いたという作者に対して、私は羨望感さえ抱くのである。
 そこから先は勢いであろうか。緊張の後の解放感だろうか。物語は二転三転しながらも、重いテーマを抱えながらもひたすら激しいアクションで読者を圧倒する。しかし、ヤングアダルト小説にありがちな、戦闘シーンの描写に没頭するあまり小説全体が持っていたはずのテーマを置き忘れてしまうというようなことはない。戦うごとに成長していく少女、という姿はきっちりと書き込まれているし、戦うことを目的ではなく手段としている執筆姿勢にゆるぎはない。
 若いから、ベテランだから、ということはあまりいいたくないのだが、本書に関しては作者の若さがプラスに働いているといっていいだろう。エネルギーの燃焼の仕方が違うのだ。余力を残さず徹底的にいくところまでいってしまうのは、若さの特権である。デビュー作の時に背伸びして書こうとした地点に、作者は今到達したというべきだろうか。
 全体を通して読んだ時に、いささかバランスの悪い部分はあるのだが、それでも本書は十分面白い。小手先の勝負をしていないからだろう。小賢しいところが(特に後半は)ない。
 作者が成熟した時には、また違うものがでてくるだろうし、それはそれで楽しみなのだが、今のうちはこうやって完全燃焼を続けてほしい。そこにこの作品の魅力を感じたのである。

(2003年8月2日読了)


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