読書感想文


落語の世界2
名人とは何か
延広真治・山本進・川添裕・編
岩波書店
2003年7月10日第1刷
定価3000円

 「落語の愉しみ」に続く第2巻。
 本巻ではタイトル通り「名人とは何か」を多面的に考察する。
 小沢昭一・池内紀・野村万之丞の座談会では「名人芸」についてそれぞれの立場から意見がたたかわされる。言語学者の野村雅昭は早世した当代の名人である桂枝雀と古今亭志ん朝の話芸を比較して、それぞれの持つ特質を浮き彫りにする。落語作家の小佐田定雄は自分の書いた新作落語を桂枝雀がどのように完成させていったかという過程をつまびらかにする。雑誌編集長の大友浩は落語家になるということを、単に職業として落語家を選ぶのではなく、入門してから修業をしていく過程で「落語家」という別の人種に生まれ変わっていくのだということを明らかにしていく。演芸研究家の戸田学は、大阪の落語家のタレント活動の変遷を通じて、大阪で落語家として活動していくことのありようを示す。評論家で文化庁の文化部長である寺脇研は落語の文化的価値について論じる。寄席文字書家の橘左近は昭和三十年代の東京落語の黄金時代の状況を証言する。名古屋で落語会を主宰する関山和夫は故人となった名人たちの高座を回想する。戦前の演芸評論家、正岡容の「鼻の圓遊と『道楽世界』」が再録され、桂文珍へのインタビューで締められる。付録には落語に関する書籍ガイド、CD、DVDガイド。
 テーマが「名人」に絞られているため、その定義や名人と呼ばれる落語家たちの魅了を伝える文章など、全体に統一感があって面白く読めた。前巻が落語そのものを多面的にとらえるという企画だったためにかえって全体像をとらえにくかったのとは好対照だ。
 それでは「名人」とは何か。その答えを出すのは実に難しい。笑わせるという一点で突き抜けた名人もいれば、一点一画もゆるがせにしない芸風で名人と呼ばれた人もいる。ただ、本書で示された内容を総合して考えると、「名人」とは時代を超えて認められる存在であるということではないかと思う。例えば初代桂春團治や八代目桂文楽、五代目古今亭志ん生らの録音が手を変え品を変えして発売されつづけるのは、時代を超えて人々を笑わせ感じさせる力があるからだろう。枝雀や志ん朝もそういった存在になるに違いない。
 本書を読むと、こういった名人たちの高座にじかに触れたくなってくる。CDを取り出して聞きたくなってくる。「名人」について語る人々の楽しそうな様子が伝わってくる。落語=落語家そのものであると、そんな風に感じるのである。

(2003年8月30日読了)


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