読書感想文


第六大陸 2
小川一水著
ハヤカワ文庫JA
2003年8月31日第1刷
定価680円

 「第六大陸 1」に続く完結編。
 順調にいくかに見えた「第六大陸」計画だったが、月に人間を運ぶ途中で宇宙開発で出たゴミ、スペース・デブリに接触しロケット開発者が事故の犠牲となるという失敗からつまづき始める。反対派は妙への攻撃を強め、実父桃園寺輝一郎は計画をエデン・レジャーエンターテイメント社から切り離す。資金源を失った妙は、それでもイメージ回復のため、自らスペース・デブリの除去の陣頭に立つ。妙と輝一郎の関係に気がついた青峰は、妙のためにその関係修復の手立てを考え始めた。また、エデンクレーターからは謎の人口電波放射が観測され、NASAはこの電波の源を突き止めようとする。様々な障害を乗り越えて「第六大陸」計画を成功させることができるのか……。
 大事業にアクシデントはつきものである。そして、成功談にはそのアクシデントをいかに乗り越えたかという伝説的な物語が必須である。本書もまた、そのセオリーにのっとって、様々なアクシデントが発生する。これを乗り越えるのは、無謀なまでの勇気とあきらめない不屈の精神力が必要なのだ。
 作者は、それらを余すところなく描き切る。その構成は考え得る障害をきっちりとシミュレーションした結果なのであろう。ところが、この計算された構成にも弱点はある。登場人物が全て善人過ぎるのだ。人の嫉妬というものは本書で展開される以上に醜く、そしてすさまじいものである。人を信じることにより困難を克服していくという甘さが、気になるのだ。
 もちろん、この物語で描きたいのはそういった人間の醜さではないだろう。しかし、そのような醜さが抜け落ちた物語には真の意味でのリアリティはないのではないだろうか。構成がうまければうまいほど、物語が面白ければ面白いほど、その欠落が気になるのである。
 作者は若い。若さゆえに未来に希望がある。だから、この物語も前向きで清々しくさえある。それは作者の美点だろう。ここにもうひとつ苦味が加わった時、作者は一段と優れた物語を紡ぐようになるのではないか。期待が大きいだけに、さらなるステップアップが望まれてならない。

(2003年9月14日読了)


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