「百年分を一時間で」の続巻で「夏彦迷惑問答」第3巻。著者の死により、これが最
終巻となる。
若い社員に、昔の日本文化について語るという形で進められてきたシリーズではあるが、さすがに3冊目となると、ところどころ著者の姿勢に疑問符をつけた
くなってくる。
若い者は知るまいと自分の記憶に従って話をしていて、たしかにそれは間違いではないらしいのだが、著者が実はくわしくない分野の話題では、その知識はそ
れほど正確ではないのではないかという部分があったからである。すなわち「野球」の項である。これに関しては私は多少なりとも文献を読み、その道の研究家
によって確定された新事実も知識として持っている。しかるに、著者は古い通説をそのまま語って聞かせている。むろん、本人はそれを正確であると信じて語っ
ているのだ。だから、何も知らずに読んでいるとついそういうものなのかと納得させられてしまう。そこに本書の穴があるのではないかと思う。
これまでの2冊は著者が元気なうちに刊行されているから、記憶の危ういところは本にまとめる際に訂正もできただろう。しかし、本書は雑誌掲載後に著者の
校訂を経ずに編集されたものである。そこらあたりでチェックできる編集者はいなかったのだろうか。「野球」の名付け親が正岡子規でないことは、たいていの
野球研究書には書かれている。だのに著者の知識にある古い通説が、本書にはそのまま載せてある。
著者の記憶力はすばらしいし、西洋館に関する部分など、自分の専門だけに実にデータは細かい。それに目をくらまされてしまう怖さもあるのでは、と感じて
しまったのである。現代批評としてはもちろんおもしろく、引きこまれるものはあるのだけれども。
(2003年10月23日読了)