読書感想文


国境
黒川博行著
講談社文庫
2003年10月15日第1刷
定価1114円

 「疫病神」の続編にあたる。
 建設コンサルタントの二宮は、趙と名乗る男からの依頼で、中古の重機を北朝鮮に横流しする仕事の仲介をする。ところが、趙は実は詐欺師で、重機を受け取ったまま北朝鮮に渡り、消息不明となる。趙の足取りをたどっている二宮の前に現れたのは、「疫病神」の極道、桑原であった。桑原の組も趙にいっぱいくわされ大金を巻き上げられていたのだ。二宮と桑原は心ならずも再び二人で行動するはめになる。平壌への観光ツアーに潜り込んだ二人は、そこで監視攻めにあう。なんとか監視員の裏をかいて趙の足取りをたどるが、敵は北部の経済特区に移動していた。中国から国境をこえて北朝鮮に不法侵入した二人。趙は見つかるのか。そして、大がかりな詐欺事件の黒幕はいったい誰なのか……。
 文庫本で800ページをこえる大長編だが、ノンストップで読ませてしまう面白さだ。詐欺の手口、その顛末などの面白さにくわえ、本書の見せ場は北朝鮮の場面だ。飢えと独裁に苦しむその様子を本書は圧倒的なリアリティで描き尽くしている。まるで作者自身が本当に北朝鮮の監視員に追われた経験があるかのような迫力である。また、北朝鮮の政情を端的に示してくれるのが桑原の例えである。常に極道の世界になぞらえて事を理解しようとする桑原のおかげで、私たちは新聞記事などよりも端的に本質をつかむことができる。
 作者ならではの大阪弁のテンポと間のよい会話、二宮と桑原を襲うピンチの数々。とにかく作者は読者を飽きさせてはいけないという感じでこれてもかこれでもかと引っぱっていく。
 掛け値なしの傑作。分厚さにたじろいではいけない。そんなことはものともしない力が本書にはみなぎっている。

(2003年11月30日読了)


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