読書感想文


闇絢爛
百怪祭 II
朝松健著
光文社時代小説文庫
2003年12月20日第1刷
定価571円

 「百怪祭」に続く、室町時代を舞台にした時代伝奇小説を集めた短編集第2巻。
 北畠顕家の残党が山中で怪異に見舞われる「血膏ばさみ」。北条高時が天狗と遭遇したという『太平記』のエピソードの真相を描く「妖霊星」。果心居士の力を利用しようとする石田三成とその配下の忍びの野望の結末を描く「恐怖燈」。房総半島にある夜刀浦で起こった姫と追っ手の壮絶な恋を描いた「『夜刀浦領』異聞」。寝る時にかぶると自分の周囲の人々の言葉が全て耳に入るという頭巾をかぶったために後醍醐天皇を襲う悲劇を綴る「夜の耳の王」。弾圧政治をしく室町幕府六代将軍足利義教が暗殺された史実をもとに、義教の特異な生涯をえぐり出す「荒墟」。全6編を収録している。
 ここでの圧巻は「荒墟」だろうか。籤引きで選ばれたという殺生将軍の心理を、これほどまでに深く重く描き出した作者の力量にはただ感服するしかない。また「妖霊星」での長崎高資の俗な野望とそこにつけこむ妖異のおそろしさや、高邁な理想を持ったために人々の欲に惑わされる「夜の耳の王」の後醍醐天皇の苦悩など、人間の持つ業の深さというものを感じさせてくれる。
 もちろん、前巻同様、真言宗立川流の秘技が本書でもポイントとなっていることはいうまでもないが、作者はそのエロティックな要素よりもこの世にあらざる怪異を呼び出すものとして立川流をキーワードに使っている。日本ホラー界の第一人者らしい位置付けといえよう。
 室町時代の闇の深さは、今後も作者のライフワークとして書き続けられるだろう。本書はその成果の一つである。

(2004年1月2日読了)


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