読書感想文


終の神話・天泣の章
封殺鬼 26
霜島ケイ著
小学館キャンバス文庫
2003年10月1日第1刷
定価543円

 「玉響に散りて」に続くシリーズ第26巻。
 凶星の蝕による災厄を防ぐため、「本家」次期当主の3人がついに協力することとなった。達彦の依頼を受けた弓生は、奈良の三輪神社へ行き石上神社の宝剣のもたらす災禍を鎮める方法を手に入れようとする。佐穂子は秋月家の術者を投入して弓生を守ろうとするが、天狗の手中に落ちかけ、苦戦する。一方、三吾は神代に凶星がもたらした災厄がどのようなものだったかを知るために遠野へ行き、昆の力を借りて土地が記憶している当時の様子を探る。しかし、遠野にも天狗の手がのび、三吾も危機に陥る……。
 本巻ではこれまでの戦いの中で反発しあっていた者たちの関係に変化があらわれる一方、凶星と神話の関係、柿色の衣を着た鬼の正体が少しずつ明らかになる。そして、その過程で呈示される記紀神話の大胆な解釈が、その正体にしっかりとした根拠を与えている。この神話解釈の部分が苦しいと、物語全体が破綻してしまうのだが、作者の呈示した解釈は説得力があり思わず実際にそういう解釈が成り立つように思わせるものである。伝奇小説の出来不出来はこの部分にかかってくるといっても過言ではなく、本巻で呈示された解釈により、このシリーズは一級品の伝奇小説としてヤングアダルトの枠を超えたものとなったと私は確信する。
 完結に向けて、大きく動き出してきた感じだ。いよいよ正念場である。

(2004年3月9日読了)


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