「陰陽寮 七 異族侵攻篇」に続くシリーズ第10作。
刀伊軍は、軍師シヴァが「聖なる槍」を使用したおかげで源頼光の軍勢を一気に殲滅する。この槍に対抗できるのは安倍晴明が来流須の民より預かった「整なる杯」のみ。晴明は帝が延暦寺に同座した後も都にとどまりシヴァとの対決を静かに待つ。一方、帝とともに上級貴族たちも移動してもぬけの殻になった内裏に、徐福が髑髏教の信者を引き連れて入り込む。徐福は刀伊の軍勢と手を組み、その後に始皇帝を復活させようと考えていた。京の都に異族がいよいよ侵入する……。
度重なる戦いを、作者は偏執的に描写し続ける。しかし、その描写のくどさが逆に物語の展開のスムーズさを奪っているように思う。この執念深さがどこからくるのかには興味があるのだが。それにしてもここまで続くと食傷気味になる。
また、阿片中毒の髑髏教団が内裏を占領してみたり、刀伊がとうとう都に入ってしまったりと、史実からの逸脱が激しくなってきた。ここまでくると、歴史改変小説のカテゴリに入れるべきものになる。やはり、伝奇小説の妙味は史実との整合性を保つという制約の中でどれだけ想像力の羽根をのばせるかというところにあると私は考えている。それだけに、いくら作者の想像力が豊かであろうとも、この逸脱はやり過ぎではないかと思う。また、「聖なる槍」「聖なる杯」など、異世界ファンタジーのような小道具の使い方も平安時代を舞台とした物語としてはどこか違和感を生じさせるものだ。
そういう意味では、本巻以降はこのシリーズは伝奇小説の枠をはみだしたものと考えていいだろう。それでもスピーディーな展開で一気に読ませてくれるのならいいのだが。本巻についていえば何か煮詰まったような印象を持たせるのだ。
(2004年3月17日読了)