「英雄三国志 一 義軍立つ」の続巻。
呂布を倒した曹操の次の標的は劉備。主従散り散りになった劉備は袁紹を頼る。劉備の妻子を守るために曹操のもとにとどまった関羽は客将として袁紹配下の武将を次々と倒すが、劉備の安全を知り、本来の主人のもとに帰参する。袁紹もまた、曹操の軍門に下り、劉備は劉表を頼るが、自分が漂流の身となる理由は軍師の欠除であると思い知らされる。かくして劉備は稀代の軍師諸葛亮を味方につけんとして三度までその庵を訪ね、ついに水魚の交わりを得る。曹操は次のターゲットを孫権とし、恭順を迫る。孫権配下の武将たちの意見は恭順か抵抗かの二つに割れる。「天下三分の計」を構想する諸葛亮は孫権にここで恭順の道を選ばれるとその構想が崩れるため、自ら孫権のもとに行き、曹操との対決に導こうとするのであった。
本巻では孔明が本格的に登場する。作者は劉備の「三顧の礼」よりもずっと前に孔明が曹操と出会いその性質を見抜いて配下となることを拒否したというエピソードをはさんでいる。これにより、なぜ孔明が劉備を選んだかという点が鮮明になる。さらに、劉備ほどの人物がどうしてその前半生を方々の国守たちの客将として過ごさなければならなかったかという理由を軍師不在に求める。つまり、劉備と孔明の出会いを必然とすることにこころを砕いているのである。これにより、この後に描かれるであろう劉備と孔明の固い結びつきについてその裏づけを与えているのである。
大胆なストーリー展開の本シリーズではあるが、そのような細心の注意が払われているところに、作者の「物語」に関する考え方が現れていると思われるのである。次巻では有名な「赤壁の戦い」が描かれることになるが、本巻でそれに対する伏線が巧妙に張られているのもそのよい例だ。どのような戦いになっていくのか、次巻の展開が楽しみである。
(2004年3月24日読了)