ベストセラーとなった「バカの壁」の続編にあたる。実は前巻はあんなに売れるとは予想もしてなかった。内容的には面白いけれど、全体に詰めが甘いと感じられたからだ。タイトルの勝利だろう。
で、ベストセラーとなったものを受けて書かれたのが本書である。前巻同様、著者のおしゃべりを編集者がまとめるという口述筆記の形をとっている。こういう形式の怖いところは、思いつきみたいにしゃべったことがそのまま文章になってしまうところだ。本書では「古代ギリシャ人は裸で過ごしていたから身体感覚というものを意識していた」というあたり、確かにそういうこともあっただろうけど、そういうギリシャでなぜプラトンのような実体とは別の理想型であるイデア界があるという考え方が出てきたかという一面を失念したまま話が進んでしまう。手書きであれば、そのへんは立ち止まって検証するのではないだろうか。話があちこちに飛びながら進むのも、そう。口述筆記の欠点がはっきりと出ているように思う。
さて、内容であるが、現代人は「人は死ぬもの」という感覚を失っているのではないかという疑義が提示される。そして、自分が死んだあとのことは意識できないのだから、そのことを思いわずらうことの愚を語り、それよりも第三者の「死」が周囲にどのような影響を与えるかを考えるべきだと主張する。また、日本人の心性として死者は「死」の直後から自分たちの社会から全く消えてしまう(だから「死」と同時に戒名がつけられる)のだが、他の国の文化ではそうとは限らないのだと論じ、安楽死や脳死に関しては日本ではその人物が社会的に抹殺されてしまうかどうかの判定規準を決めることになるのでもめるのだという。そして、「死」というものにちゃんと向き合うことによって、今、生きている一瞬が実はかけがえのないものなのだという意識を持つことができるという結論を下す。
前巻同様、示唆に満ちた考え方が多く示される。「死」のとらえ方について、コミュニティの中での人間の存在というものを中心に考えるあたり、非常に面白い。しかし、なにかすっきりしないものがあるのも事実だ。論証が明晰でないからだろうか。結論は明晰であるにも関わらず、そこにたどりつくまでの過程で事実関係が明確でない部分がけっこう多いのである。ただ、解剖学の研究室や病院や医者の部分は具体的でわかりやすい。おそらく自分の考えをまとめながら話をしていくという作り方なのだろう。だから、具体的な例を出せないところではあいまいな物言いになってしまうのだ。
もうすこしていねいな本作りをしてほしいと思うのは私だけだろうか。
(2004年4月21日読了)