「闇の恋歌」に続くシリーズ41冊目は久々の短編集。
「ギターを持った渡り蝶」は、愛する家族を殺された女性が妖術射撃の腕を身につけて凄腕の妖術射撃者に復讐をする物語。復讐者が街頭でかき鳴らすギターの音色の哀しみと、復讐を成し遂げたあとにその術をもてあましてしまう哀しみが二重奏となって響いてくる。「路地の白い腕」は、〈魔震〉時に恨みを残して死んでしまった少女による連続行方不明事件を描く。自分のいるあちら側の世界に人を引きずり込まずにはいられない少女の孤独と心の闇の深さが印象的だ。「ブルース奇譚」では、秋せつらもひいきにしていたテナーサックス奏者が行方不明になり、そして蘇ってきて自分を消そうとした者どもに復讐をする話。復讐譚としては「ギターを持った渡り蝶」の方が重く深い。同一テーマの、しかも音楽をモチーフとした短編を同じ本にまとめるのは決して得策とは思われないが、それだけ作者にとっては思い入れがあるのかもしれない。「夢見る君へ」は秋せつらが依頼された2人の人探しの相手が実は同じ人物のドッペルゲンガーであったという不思議な展開の短編ではあるが、その男たちを生み出した少女の痛みが切なく響いてくる。
4本中、2本が復讐譚で2本が少女の怨念と、テーマが重複しているのが本書の特徴である。これは何を意味しているのか。つまるところ、今の作者の関心がそこにあるということなのだろう。なにしろこれだけ長く続いているシリーズなのだから、最新作ごとに作者の興味関心の方向が変わるのはおかしなことではない。むしろ、同じテーマであっても料理の仕方を変えることによりそれぞれを印象づけることができるのは、作者の腕と、そして〈魔界都市・新宿〉の闇の深さがなせる技だといえるのかもしれない。
(2004年6月10日読了)