「英雄三国志 五 攻防五丈原」の続巻。シリーズ完結編である。
孔明の死後、蜀の軍を任された姜維は、魏を倒すために何度も出兵するが、そのたびに跳ね返される。魏では司馬仲達の死後、その子の司馬師と司馬昭が実権を握り専横の限りを尽くす。呉では孫権の死後、名だたる名将が相次いで没し、内部での権力争いが起こっている。そのような中で、蜀の皇帝劉禅は宦官の意を重んじるようになり、国内でも主戦派の姜維は白眼視されるようになる。そして、ついには蜀は魏に滅ぼされ、三国鼎立時代は終焉を迎えるのである。
本書では、三国志の主役の一人である孔明が亡くなってからの状況が描かれる。孔明と仲達のような手に汗握る知略の攻防や、麻のごとく乱れた中から新しい英雄が出てくる期待感は、ここにはない。作者は、内部分列を繰り返す三国の状況を寂寞たる思いで描写し続けるのである。草創期の熱が醒めたあと、膿のように出てくる策謀家たちを描きながら、作者は宴のあとの虚しさを思ったのではないだろうか。物語でいえば、あまり面白くない部分である。しかし作者は独特の無常観を全面に押し出すことにより、虚しさ、哀しさというものを私たちに突きつける。物語の山場とはまた違う興趣がここには現れている。作者の腕の確かさを見せつける一巻といえるだろう。
作者の死後、エンターテインメントとしての時代小説は大きく転換していく。作者が孔明なきあとの三国をここまできっちりと書き上げたということは、自分の死後も違う形で時代小説が書きつがれていくことを信じてのことではなかったか。
ともあれ、練達の書き手による三国志はここに完結した。時代小説が最も輝いていたと思われる時代の最後の光芒を楽しませてもらえたという意味でも、この復刊は大きい。
(2004年7月30日読了)