「EDGE3〜毒の夏〜」の3年ぶりに刊行された続刊。作者の新刊自体が2年ぶりであり、待望の新刊といえるだろう。
心理捜査官大滝錬摩は、わが子として育ててきた元同僚の藤崎宗一郎を医師の内藤夫妻に預け、故郷の飛騨で心を安静に保とうとしていた。宗一郎は事件により頭を銃で打たれ、九死に一生はとりとめたものの記憶を完全に失い0歳児と同様の状態で生き返ったのだ。以来4年、一から育ててきた彼が自分の〈過去〉を知ろうとしたために錬摩との間に齟齬をきたすようになったのである。離れて暮らすことによって、お互いを見つめ直す機会にしようとした錬摩であるが、報道で知った東京での犬の連続虐殺事件に関心をもち、プロファイラーとしての依頼もないのに調べ始める。一方、錬摩を失った宗一郎は、虐殺事件で愛犬を失った女性と偶然知り合い、恋愛にも似た感情を抱き始める。事故をきっかけに生じた自分の〈能力〉を使って犬を殺した犯人を探る宗一郎が行き着いた場所には、推理によって犯人にたどりついた錬摩がいた。虐殺事件の犯人とは。宗一郎と錬摩の感情の行き違いの行方は……。
ヤングアダルト文庫としては異例のブランクがあいた作者であるが、虐殺事件の犯人の心理描写などは以前にも増してきめ細かく描き出すことができている。あとがきによると転職などの影響でなかなか小説が書けなくなったそうだが、ぶちあたった壁を突破できたようだ。
シリーズとしては、錬摩と宗一郎の軋轢がより複雑になっていき、物語に一層深みが増した。本筋である虐殺事件と二人の関係の変化をうまくからませながら同時進行で物語が進んでいくところなど、ブランクを感じさせないうまさである。次巻で完結だそうだが、どのような結末が待ち受けているのかいやが上にも期待は高まる。
本書の刊行をきっかけに、作家としてさらなる活躍ができることを期待している。おかえりなさい、と声をかけたい気持ちである。
(2004年8月30日読了)