読書感想文


ローマ人の物語8
ユリウス・カエサル ルビコン以前[上]
塩野七生著
新潮文庫
2004年9月1日第1刷
定価400円

 「勝者の混迷[下]」の続巻。
 本巻から、世界史上有数の英雄、ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の生涯が描かれ始める。本巻では誕生から40歳になるまでの、いわば雌伏の時代である。カエサルは貴族の生れではあるが、決して裕福な生活ではなかった。しかし、教育熱心な母親により教養を蓄え、マリウスの係累であるということで当時の貴族の一般的な役職につくことが約束されていた。しかし、スッラの独裁により、マリウス派は政界から一掃されることになり、カエサルは若年のために死罪こそ免れたものの国外に脱出し、復権の日がくるのを待つ。スッラの死を機にローマに帰国したカエサルは、執政官キケロが君臨する政界にも復帰するが、それは決して華々しいものではなく年の近いポンペイウスと比べても出世の遅い方であった。それでも彼は着実に実績を重ね、元老院支配の状況を変えるべく、少しずつ力を蓄えていく。
 カエサルが歴史の舞台に華々しく登場するのは40歳以降であるという。しかし、著者はあまり知られていない雌伏の時代にもかなりのページ数をさいている。これは、著者が歴史における原因と結果というものの意味をよくとらえているからなのだろう。40歳になるまで本当に無為に過ごしていたのだったら、以後の栄光もなかっただろう。ならば、その期間にカエサルはどう過ごしていたのか。分をわきまえながら着実に力を蓄え、後のことを見通しながら目の前の問題に対処していく。なかなかできることではないのだが、それをやってのけたところにカエサルの凄みがあるのだろう。
 ローマは1日にしてならず。カエサルのような英雄であっても、それは同じことなのである。

(2004年9月4日読了)


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