「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ二」の続巻。
唐の順宗皇帝は何者かの呪により日々弱っていく。西明寺の恵果法師が王宮に呼ばれ、皇帝を呪から守る秘宝を行う。一方、空海は、玄宗皇帝の側近高力士が安倍仲麻呂にあてた手紙があることを知るが、その手紙は恵果が保管しているという。空海は、蠱術を行う方士がいるという話をマハメットからきき、その方士こそ順宗に呪をかけた張本人であると喝破する。空海は丹翁を呼び寄せ、玄宗と楊貴妃のゆかりの土地である華清宮で宴を催すと伝える。空海の意図を察した丹翁は、密かに盗み出していた高力士の手紙を渡した。そこには衝撃的な事実が書かれていた……。
空海がいよいよ本領を発揮する時が近づいてきた。その呪術合戦などへの興味は尽きないが、本巻の読みどころは実は別なところにある。それは、作者が空海の求めた密教とはなにかを、空海の口を借りて述べているところである。般若心経の末尾を真言であると読み解き、作者独自の仏教解釈を提示した、その部分こそこの物語で語られるべきテーマなのではないかと感じた。その無常観は、本来の仏教の持つスケールに加え、非常に日本的な感覚のものである。次巻は完結編であるが、そのテーマと呪術合戦の結果がどのように融合されるのか、刮目して待ちたい。
(2004年9月8日読了)