「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ三」の続巻。完結編である。
玄宗皇帝と楊貴妃が最良の日々を送った華清宮。今は廃虚となったその場所で、空海は酒宴を開く。白楽天、玉蓮、橘逸勢、そして丹翁らが集い、皇帝に呪をかけている白龍を誘い出そうというのだ。華清宮には犬の死体など呪に使われた蠱術の贄が大量に残されていた。そして、宴が始まり、白龍が老女を伴って出現した時に、異変は起こった。丹翁でも白龍でもない幻術師によるものと思われる攻撃が空海たちに襲いかかってきたのだ。新たに現れた幻術師と何者か。そして、皇帝にかけられた呪は解かれるのか。空海は「密」を日本に持ち帰ることができるのか……。
奇怪な事件に端を発した騒動は、唐の皇帝はおろか王朝全体を揺るがすものにまで発展していった。このあたりの風呂敷の広げ方はさすが作者である。白楽天の「長恨歌」創作の裏話になっているという構成も憎い限りである。
ただ、前巻で示された「密」の思想の大きさに対し、敵であるべき幻術師たちの存在が、話が進むにつれて少しずつ矮小化されていくのが残念なところ。呪をかける理由など、空海の「密」と対比すると、俗に過ぎていけない。せっかくの素材で書き手が夢枕獏なのだから、どこまで話が広がっていくかと期待して読むから、よけいにそう感じるのかもしれないが。3巻までの盛り上がりに対して、本巻はなんとかまとめようという意識が強かったように思われるのである。18年もかけて書かれたものだけに、そこらあたりは途中で構想が変わったりしたのかもしれないが。
空海という希有な存在を主人公にできる作家は数が限られているのではないかと思う。なにしろ私たちの物差しで計ることのできない巨大な存在である。そんな空海に正面からとりくんで、これを完結させたのだから、それだけでも凄いと思う。改めて作者に敬意を表したい。
(2004年9月20日読了)